「無線が遅い!つながらない!」と言う前に

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 「インターネット接続は無線でしか使ってない」という方も多いかと見受けます。ノートPCには無線LAN接続用アダプタが内蔵されていることが当たり前になっています。スマホやタブレットの普及で、無線LANで接続する方が主流になってきた印象もあります。(少なくとも家庭内LANにおいては)
 法人内での有線LAN・無線LANに関しては、別の機会に詳しく述べることにします。今回は無線LAN利用時に速度低下が起きたり、つながらない場合にはどのような原因が考えられるかを考察してみます。
 また、そのような場合にはどうすればいいいのかについても言及します。

 有線LANの場合ですと、ネットワーク自体に接続出来ない原因は比較的見つけやすいです。「ネットワーク自体につながらない」ということですので、ここでは「特定のサイトに接続出来ない」という場合は除外しています。また、「DHCPによるIPアドレス自動取得が出来ない」という場合も除外しています。このケースはDHCPサーバに起因する問題も考えられますので。
 L1(物理層)レベルでの問題だという想定です。以下のような原因が考えられます。

  • LANケーブルの断線または接続忘れ
  • PC側の無線LANアダプタの故障
  • コネクタの損傷
  • スイッチングハブやL2・L3スイッチ・ルータ等のネットワーク機器のポートの損傷
  • 同機器自身のハングアップや故障
  • PCやネットワーク機器の電源部故障

 有線LANの場合は、目に見える形でネットワークにつながっている分、トラブルシューティングしやすいとも言えます。特に有線LANでつながらない場合によく言われる「低レイヤから見て行け」という鉄則があります。昔、「ネットに接続出来ないんですけど、サーバがおかしいんじゃないの???」というような問い合わせを複数受けた経験があります。状況を聞いて、PCから順番に調べて行くと、PCにLANケーブルが刺さってないとか、スイッチングハブの電源が落ちているとかいったような基本的な原因にあることも多いです。

 さて、無線LANの場合はどうでしょうか?つながっている状況が目には見えない分、難易度が高くなります。無線LANで接続出来ない(L1レベルの話として)原因の分かりやすい事例を列記してみました。

  • PC側の無線LANアダプタが有効になっていない
  • 無線アクセスポイントの電源が入っていない
  • 無線アクセスポイントの電源部故障
  • 無線アクセスポイントにPoE給電に失敗している
  • 無線アクセスポイントにLANケーブルが刺さっていない
  • 無線アクセスポイントに接続されているLANケーブルが断線している
  • 無線アクセスポイントのLAN接続用のコネクタが断線している
  • そもそも無線アクセスポイントからの電波が届かない場所にいる

 有線LANでのトラブルシューティング事例になぞらえてみました。無線LANでも可視化可能な部分についての原因ですので、上記の事例では比較的早期解決出来ます。(代替品の購入に時間がかかるとか、そういう問題は一旦横に置いておきます)
 これら以外で考えられる「極端に遅い・つながらない原因」について考察してみます。

1. 1台の無線アクセスポイントに多くのクライアントがぶら下がっている状態になっている

 スマホやタブレットやゲーム機等、昔に比べて確実に台数は増えています。1台の無線アクセスポイントに対して、ぶら下がっている機器が10台を超えるなどということは普通に起きています。
 無線LANの仕組みとして、無線アクセスポイントとクライアント間の通信は、基本的に1対1です。
(MIMOの話もありますが、これは後日記事として書きます。しばしお待ち下さい)
 「無線アクセスポイントは他のクライアントとの通信を高速で切り替えることで、あたかも1対nの同時通信をしているように振舞っている」というのが実際のところでしょうか。
 これはある意味無線LANの宿命であるとも言えます。無線LANの根幹に関わってきますので、どうしようもない側面でもあります。

2. IEEE802.11bにしか対応していないクライアントが1台以上存在する場合

 IEEE802.11bという古い規格がありまして、この規格では理論上最大11Mbpsしか出ません。「これがどうして全体に影響を及ぼすのか?」という疑問を抱かれる方もおられるでしょう。
 これは、前述の「1対1」と「高速切替で疑似的に1対nに見せる」という2点に絡んできます。

 有線LANと違って、無線LANの場合、「クライアントがどこに存在するか分からない」という致命的弱点を抱えています。これをどうやって解決しているかというと、CSMA/CAという仕組みを使っています。
 CSMA/CAはCarrier Sense Multiple Access/Collision Avoidanceの略で、日本語訳としては「搬送波感知多重アクセス/衝突回避方式」となっています。なんだか難しそうですね。
 これも噛み砕くと、「誰かが電波を出してるときに、うっかり出してしまうことを避けるための仕組み」と表現出来ます。

 これに対して、有線LANの場合はCSMA/CDという方式が対応します。Carrier Sense Multiple Access/Collision Detectの略です。無線LANの場合はAvoidanceでしたが、こちらはDetectになっています。一体何が違うのでしょうか?
 こちらの日本語訳は「搬送波感知多重アクセス/衝突検知方式」になります。無線LANの場合は「回避」ですが、有線LANの場合は「検知」になります。後者の場合はケーブルによって伝送路が固定されている形になります。
ある端末がパケットを送信したとします。同時に他の端末が送信してしまった場合には衝突が起きますので、一旦通信を止めてランダムな時間を置いて再度送信し直すということを行っています。
(注:現在では全二重通信が主流ですので、半二重通信で使われているCSMA/CD方式が使われる場面は少なくなりました)

 さて、無線LANに話を戻します。有線LANの場合と違って、空間上に電波を送信します。無線アクセスポイントやクライアントにとって、他の端末がどこにいるかが分かりませんし、空間上で衝突を検知しようがありません。
 そのため、「回避」という方策を取ることにしています。有線LANの場合は屋内通路での部屋の行き来を想像して下さい。無線LANの場合は一軒家があって、周囲を公道で囲まれている状態で、いつどこから自動車やバイクがやってくるか分からないし、人がやって来る方向も分からないし、自分もいつ出て行けばいいか分からないという状況を想像して下さい。うっかり飛び出すと、下手すると死んでしまいます。なので、様子を見てから出かける/やって来るというイメージですね。
 人や自動車を電波に置き換えて下さい。どこから飛んでくるか分からない電波ですから、パケットの衝突が起きないようにするためには、様子を見ないといけないことになります。

 話が長くなってしまいました。1対nで接続している場合、無線アクセスポイントはn台のクライアントと高速で切り替えながら通信します。その際に1台だけ遅い規格でしか通信出来ない端末があったとします。通信速度が遅いために、無線アクセスポイントと当該端末の通信だけ他の端末よりも余分に時間を要してしまうことになります。
 そのため、無線アクセスポイントがn台分の通信を1サイクル行う時間は延びてしまいます。全体としての速度は低下しますから、各クライアントベースで見た場合でも速度が低下するということになります。

3. 1台だけ離れた場所にクライアントが存在する場合

 この場合も2.と似た側面があります。電波の速度(=光速)は同じですので、クライアントと無線アクセスポイントとの距離が近い方が当然のことながら、通信時間は短くなります。逆に遠ければ通信時間は長くなります。
 2.でも述べましたように、1対nで通信しているのですから、1台だけ通信時間が長いクライアントが存在すると全体の通信所要時間は長くなります。そのために、この場合も各クライアントベースで見た場合、速度低下が発生することになります。
 通信距離が長いということは、電波も弱くなります。クライアントまたは無線アクセスポイントが電波を受信出来なかった場合の再送も発生しますので、これに引きずられる形で、他のクライアントの通信速度が低下します。

4. 他の機器の干渉による影響

 よく言われるのは電子レンジ使用時に切れる・遅くなるという事例です。これは電子レンジが2.4GHz帯の周波数を使用していることによります。無線アクセスポイントがIEEE802.11b/g/nにしか対応していないケースですと、どうしようもありません。この場合は無条件にIEEE802.11a/g/n/ac対応タイプに買い替えましょう。
 電子レンジ以外にも電波発生源はあって、ISMバンドと呼ばれる周波数帯を使う機器の存在があります。ISMはIndustrial,Scientific,Medicalの略です。工業用・科学用・医療用機器ということになります。これらの機器を利用している場合に干渉が発生し、速度低下・場合によっては通信不可という事態が発生します。
 5GHz帯と呼ばれるIEEE802.11aやIEEE802.11ac等を使う場合でも干渉は全くないとは言えません。レーダーによる影響を受ける場合があります。レーダーからの電波を感知した場合、一定時間無線アクセスポイント側は電波を止めるという仕組みになっているために、通信断が発生することがあります。
 なお、2.4GHz帯も5GHz帯もアマチュア無線が使用する帯域がありますので、こちらも注意が必要な場合があります。

5. 近隣に無関係な無線アクセスポイントが存在する場合

 正直なところ、これは手の打ちようがありません。オフィス街で無線LANアダプタを有効にしていると、多くのSSIDが見えることがあります。近隣のオフィスから電波がリークオーバーしてしまっているわけですね。
 この漏れてきた電波と干渉してしまって、速度低下や通信が不安定になるということは十分起こり得ます。

6. 隠れ端末問題

 無線LAN利用時にはよく語られる問題です。2.でも触れましたが、無線LANの通信は1対nで通信しているという点です。
1台の無線アクセスポイントに対してn台のクライアントが通信する仕組みです。他のクライアントが電波を出していないことを確認してから電波を出すのですが、n台のクライアントのうち、AとBはお互いに電波が届かない場所にあるとします。
 この場合、Aが無線アクセスポイントと通信しようとして電波を出したとします。しかし、BはAが電波を出していることを感知出来ません。(Aからの電波が届かないのですから当然ですね)
 そうなると、Aが電波を出しているのと同じタイミングでBが電波を出してしまうことも十分に起こり得ます。そうなると、衝突が発生して通信が成立しません。
 隠れ端末問題に関する詳細な説明は後日記事にする予定です。

 おおよそ以上のような理由により発生するものと考えられます。有線LANに比べて、原因を究明するハードルは上がります。「配線しなくて済む代償」を高いとみるか、安いとみるかは意見の分かれそうなところです。
無線通信障害

ネットワーク・情報セキュリティ関係を主に担ってます。情報処理安全確保支援士登録してます。医療関係情報基盤にも携わってました。小規模NW構築や情報セキュリティ関係講師経験あります。医療情報関係の連載執筆経験もあります。

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